拙の大好きな、新版画の作家川瀬巴水の展示が、千葉市美術館で開催中。19日に終了してしまうので、慌てて行って来ました。
http://www.ccma-net.jp/exhibition_01.html
「生誕130年 川瀬巴水展 —郷愁の日本風景」と題する展覧会で、300点を超える作品が展示、しかも同美術館の保有する他の新版画作品の展示も見られるという、大変内容の濃い展覧会でした。
千葉市美術館は、19年前にオープンした比較的新しい美術館ですが、初代館長が辻惟雄氏ということもあり「奇想の画家」を紹介する展示を早くから行うなど、かなり特徴ある美術館です。
で、その外観がこちら↓
中央区役所の建物の7・8階が美術館になっていますが、実は1927年に建てられた「川崎銀行・千葉支店」を囲むように、建てられています。
この辺を見るとよくわかりますね。右側が川崎銀行のファサード、左側が新しく建てられた部分。
古いファサードを見ると、当時流行のネオ・ルネッサンス様式だということが分かります。
こちらが、内部。古いビルのファサードのみを残して、リビルドする手法は日本橋や丸の内で多用されていますが、このようにすっぽりとかぶせる手法は珍しいですね。
おっと、いけない!建物の話はともあれ、『川瀬巴水』です。
一時期に比べると、かなりメディアが取り上げる頻度も高くなって来たので、ご存知の方も多いでしょう。大正末期から、昭和にかけて活躍した「新版画」の作家で、例えば
この増上寺の雪景色や
「馬込の月」が有名ですね。
文明開化で廃れて行った浮世絵の技法の再興を願った、京橋の画廊オーナーの渡辺庄三郎が版元となって「新版画」が作られました。
明治以降、版画も西洋の流れを受けて、彫り&刷りまで作者が手がけるのが主流になっていましたが、渡辺が提唱したのは、新しい題材や構図の絵を、江戸伝統の技法で一流の彫師、刷師で仕上げるというものでした。
逆輸入された印象派の技法なども取り入れられていて、新たな浮世絵と呼ぶにふさわしい作品が続々生み出されて行ったのは、よく知られています。特に空気遠近法や、気象条件の再現などのために、版をブラシで荒らしたり、刷師がバレンを意図的に荒々しく使いマチエール感を出すなど、様々な技法が新たに開発されていて、究極の技巧が凝らされています。巴水の作品も、それらを深く理解した上で描かれていて、雨に煙る女性、吹雪の中の轍など、それまでの日本にも欧米にも無かった表現が可能になっていました。
そういえば、あの「スティーヴン・ジョブス」も新版画が大好きだった。という逸話がNHK日曜美術館で紹介されていましたね。
今回の展示では、原画となった水彩と仕上がった木版が並べられているものが多く、巴水が如何に刷師と彫師を信頼し、協力しあって作品を仕上げていったかが、よく解るようになっていました。
さて、常設展示の方も、同美術館が所蔵する「新版画」が勢ぞろい
実は、新版画は、この人から始まったとされる、オーストリア人のフリッツ・カペラリの作品↓
女性のデフォルメが独特ですね。サインも格好良くデザインされていて後の日本人画家にも影響を与えているようです。
そして、こちらは英吉利人のチャールス・バートレットの作品
BDコミックに通じる世界観を感じるのは拙だけではないでしょう。
彼らの作品を通じて、彫師や刷師に共通の理解を作り上げた上で、伊東深水、橋口五葉、川瀬巴水、吉田博・・などの日本人画家たちが多様な作品を発表し、ヒットも出るようになりました。
こちらは1950年の川瀬巴水の作品。海外向けに電通が出した雑誌。サンタクロースと和庭園の共存です。
というわけで、新版画にどっぷりと浸かった一日でした。